臨床医とバーンアウト
医師やその他の医療従事者のバーンアウト(燃え尽き症候群)が患者の転帰に悪影響を及ぼすのではないかと考えられている。燃え尽き症候群は臨床医の約半数に生じ、我々Generalist(家庭医、救急医)も例外ではない。
燃え尽き症候群は、医療ミス、医療の質の低下、そして費用の増加と関連する。また、医師の労働力への影響も懸念事項である。燃え尽き症候群には、官僚主義の制度、臨床以外の労働時間、電子カルテなどが関与していると考えられている。
医師の多くは燃え尽き症候群やうつ状態を認識せず、助けを求めることはさらに少ない。燃え尽き症候群は個人の疾患ではなく、システムの問題であり、体系的な解決策で対処する必要がある。患者経験価値(Patient experience)の向上、公衆衛生の向上、医療費の削減を達成するためには、医師の燃え尽き症候群を認識し、対処していかなければならない。
★ディスカッション:
バーンアウト(燃え尽き症候群)という言葉は、m3.comなどの記事で取り上げられたり、学会活動(日本では日本神経学会が活発)として啓発されたり、耳にしたことがある人の方が多いと思う。しかし、まだまだ医師の「自己犠牲」によって成り立っている病院の方が大多数であり、それを理想的な医師像とする医療者も多い。
Thomasらは、効果的な患者ケアと医師の幸福は不可分に結びついている、医師の幸福は医療チームの他のメンバーの幸福と関連している、医師の幸福は質の指標である、医師の幸福は個人、組織、社会が共有する責任であると主張している(JAMA 2018;319(15):1541–2.)。
コロナ時代となり、ますます医療は逼迫してきており、医療従事者にかかるストレスは多大だ。この厳しい情勢の中で、バーンアウトを防ぐには、個人のレジリエンスを高めるだけでは不十分であろう。医療従事者はバーンアウトに対して関心を持ち、そして組織としてバーンアウトの防止に取り組む必要があるのではないだろうか。
尚、本論文では、ゼネラル・エレクトリック社が作成した電子カルテに対して痛烈な批判がなされているが、筆者の個人的な感情が前面に出ていて、なかなかに面白い(”Steve Jobs would not have tolerated the user interface provided in our electronic medical record by General Electric.”)。
参考文献、引用
Yates SW. Physician Stress and Burnout. Am J Med. 2020 Feb;133(2):160-164.
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