傲慢な予防医学に対する注意喚起

The arrogance of preventive medicine

★論文の内容:

予防医学には3つの傲慢がある。

①症状のない患者を執拗に追いかけ、健康を説く 。

②予防医学が、それを遵守する人に取って害ではなく益だと確信している。

③予防医学に疑念を抱く人を威圧する。

このような3つの傲慢が許されるためには、予防医学は最高レベルのランダム化比較試験に基づくものでなくてはならない。

例えば過去に、エストロゲンとプロゲスチンを、心血管疾患から保護されるという仮定のもとに健康な閉経後の女性に投与した研究がある。

結果としてエストロゲン+プロゲスチン治療を受けた8506人の女性は、プラセボに割り付けられた8102人の女性に比べて、冠動脈イベントが約40件多く、脳卒中が40件多く、静脈血栓塞栓症が80件多く、浸潤性乳がんが40件多く発生し、研究は中止された。

厳密で十分な資金が投入された試験が計画、実施され、研究課題の答えが明らかになった時点で中止されたため被害は広がらなかったが、この治療法が世界中で閉経後の女性に処方される頻度を考えると、処方され続けた場合は何十万人もの健康な女性が被害を受けることになったであろう。

★ディスカッション:

生命の危機に関わるような治療の時には、エビデンスではなく生理学・薬理学・エキスパートオピニオンに沿って治療を施すこともあるし、この治療で必ず良くなると医療者が断言することもあまりないだろう。そこには侵襲的な介入に対するある種の謙虚さがあるともいえるだろう。

しかし予防医学を積極的に促す時、無症状の健康な人々を追いかける理由を正当化するためには、最高レベルのランダム化比較試験はもちろんとして、そうでなかったとしても、ある程度介入を正当化できるような確固たるエビデンスに基づいたものである必要があるのではないか。

現在の予防医学の中には明確なエビデンスがないまま私利私欲のため、世間からの評判のため、あるいは誤った善意のために、横行しているものもある。エビデンスがないことがそのまますなわち無価値・害という訳では無いが、エビデンスの無い予防によって、罪のない人々が誤った治療を受けて害を被る可能性を忘れてはいけないし、予防医学には3つの傲慢が存在し、ただ良いものとして振りかざしてはいけないと考えた。

参考文献、引用

  1. Sackett DL. The arrogance of preventive medicine. CMAJ. 2002;167(4):363-364.

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